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【書評】『乱反射』あらゆる残酷な空想に耐えておけ

年間100冊本を読みたいぼく(ぼくみん (@b0kumin) on Twitter)です。ゆえに読書習慣をつけたいぼくです。

今回は本のご紹介。

裏表紙に書かれた内容紹介の言葉を借りれば、誰にでも心当たりのある " 小さな罪 " の連鎖で幼児がある事故に巻き込まれる、というある種の社会問題をはらんだフィクション小説です。

この本を読むにいたったきっかけは、乃木坂46のメンバーの齋藤飛鳥さん。
Youtubeで見た「乃木坂ってどこ?」という番組で齋藤飛鳥さんが紹介していて面白そうだと思い、購入しました。

 

これ以降は区間を分けて書いていきます。

ネタバレの内容までお話しするので、内容を深く知りたくない方は途中までお読みいただければ幸いです。

 

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『乱反射』貫井徳郎・著 朝日文庫

乱反射 (朝日文庫)

乱反射 (朝日文庫)

 

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この小説に目次はなく、2ページの前置きののちにすぐに物語が始まります。

そして全599ページと手軽に読める分量ではありませんが、それでも私が一気読みできたのは物語に面白さがあったのはもちろんですが、一つのギミックのおかげもあります。

それは、あとがき部分を除いた586ページが81の小さなパートに分かれていたことです。
つまりパート-44から始まって0を通り、パート37で物語の終わりを迎える形をとっています。

パートの大半が7~8ページで収まるもので、読み進めるうちに0、つまり幼児が巻き込まれる事故という一つのクライマックスに向かっているのが予想できます。

そしてその一つ一つのパートに描かれるのは何気ない日常風景であったり、家庭内のちょっとしたいざこざであったりするのですが、その0に向かって物語が進行しているという意識のおかげで「この話がどのようにつながっていくのか」という意識と集中力を持って読むことができました。


以下、ネタバレの内容を含みますのでそれがNGの方はここで終えていただければと思います。

ここまで読んでいただいき、ありがとうございました!
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まずはあらすじ。
街路樹倒木で幼児が下敷きになり死亡する、という悲しい事故が起こります。

そして事故には多くの人物が関連していますが、直接的な(あるいは間接的な)原因をつくることになった人物が七人います。

  1.造園業者の足達道洋
  2.街路樹沿いを犬の散歩コースにしていた三隅幸造
  3.市役所職員の小林麟太郎
  4.街路樹伐採の反対運動をしていた田丸ハナ
  5.街路樹沿いに住む榎田克子
  6.当直医師の久米川治昭
  7.近くに住む大学生の安西寛

この七人がしてしまった誰にでも心当たりのある、小さな罪が、「風が吹けば桶屋が儲かる」のようにそれぞれ連鎖、絡み合って街路樹の倒木、幼児の死亡という事故を引き起こす結果となってしまうのです。

亡くなってしまった幼児の父親は新聞記者であり、自身の職業能力を駆使してこの七人の罪と所在を突き止めます。
新聞記者としての取材が同時に被害者遺族と加害者の対面となっており、六人それぞれから事件の真相を聴くと同時に、自分がしたことの結果を自覚させようとします。

しかし仕事としての街路樹診断を怠り、倒木の直接的原因をつくった造園業者の足達道洋以外の六人は、「あなたが○○○しなければ・・・」と迫っても遺族である父親へ謝罪することはありませんでした。

それどころか「自分は悪くない」「そこまで悪いことはしていない」「人一人が死んだ責任なんて到底負えるはずがない」と開き直って自己正当化してしまいます。
六人の罪は法で罰せられるものではないものがほとんどのため、彼らを裁くことはできません。

救いようのない状況のなかで、なんとか最後に妻と二人で生きていく小さな光を見出して物語は終わります。

 

この本を読んで【三つのこと】をぼくは思いました。


一つ目。

自分が日常犯しているモラル違反
道につばを吐く、タバコの灰を地面に落とす、車が来ていないときに信号を無視して歩行する、ということを少ない回数ながらしてしまうことがあります。

おそらく初めてやったときは「誰か見ていたら嫌だな」とためらわれましたが、今では何気なくしてしまっている行為。
そういった小さなルール違反、モラル違反がどこかで大きな事件・事故につながっているかもしれないという想像力を持たせるきっかけになりました。

これからはこういったモラル違反をする前に、この本を思い出してその行為を思い留まることになりそうです。


二つ目。

状況が一変したときに見せる人間の二面性の怖さ
・記者である父親から事件を聞かされ、反対運動仲間だった静江があっさり「反対運動の代表は田丸ハナ」と切り捨てたシーン。

・愛犬のフンを始末しなかったことが遠因で倒木し、幼い命が失われたと知った三隅幸造が自分の妻に事件の話をしたところ、今まで何十年と従順に仕えてくれた妻がまるで見捨てたように「晩節を汚しましたね」と言うシーン。

・何事も理詰めで考え、時には冷静な意見で助けてくれた情緒おだやかと思っていた妻が「殺してやる!殺してやる!」と三隅老人に迫るシーン。

人には自分自身すら自覚しない違う一面を持っているのかもしれない、と思わされました。


三つ目。

自分がこの父親だったらどうするだろうということ。
作品中の幼児の父親は、事件を記事にしてこの事件の真相と責任の所在を訴えようとし、そうすることで生きる活力・目標を得ていました。

同じような立場になったとしたら果たして自分はどうするだろう。
幼児の父親のように憤怒の塊になって事件の真相を知ろうとするだろうか。
ただただ子どもを失った悲しみに打ちひしがれ続けるんじゃないだろうか。

そう考えたときに『ハンターハンター』という漫画のあるワンシーンを思い出していました。
f:id:hundreds_of_works:20200219022905p:image出典:HUNTER×HUNTER NO.1
あらゆる残酷な空想に耐えておけ
現実は 突然無慈悲になるものだからな
いつか来る別れ道に備えて


今からできることという訳ではないですが、こういう言葉を頭の片隅に置いて生きていくのも一つだと思いました。

 

『乱反射』貫井徳郎・著 朝日文庫

乱反射 (朝日文庫)

乱反射 (朝日文庫)

 

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 ■目次■
なし
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最後に、この本を読んでもう一つ持った感想を述べて終えたいと思います。

著者の特徴なのか常用外漢字が多用されており、ルビがないと読めないものが多く、「あぁ、まだまだ漢字や日本語の勉強不足だな」と痛感しました。

例えば「口幅(くちはば)ったく」「眦(まなじり)を吊り上げて」「窶(やつ)れた雰囲気」といったもの。

「同衾(どうきん)を望む」に至っては前後から類推することもできず、調べて全く新しい知識をひとつ得てしまいました。苦笑

定期的な読書習慣を取り戻して、これから新しい知識や考え、価値観などを吸収していこうと思わせてくれた一冊でもありました。


今日はこのへんで。

ではまた。

 

最後に。

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